※好きな選手アンケート1位・記念作品。

“おかしいな、私はレギュラーのはずなのに”

史上最年少14歳8ヶ月でVプレミアリーグデビューを飾り、
史上4人目の15歳での全日本入りを果たしているこの選手は
戸惑っていた。

ロンドン以降足掛け4年。
毎年全日本にいたセッターは
一人しかいない。

毎年違うライバル。
それも、もう慣れた。
共にポジション争いをした選手は
全て年上の先輩。

だが、今年は勝手が違う。
初めてレギュラーとして扱われる
最初の年。

毎年全日本のレギュラーを期待され続けた彼女は、
知らないうちに22歳。
もう立派な大人。
でも、リオではやっぱり最年少。

武士のようにストイック
繊細と強気の狭間にいる
そんな彼女は、宮下遥選手。

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・コートネーム:ハルカ

・シャツネーム:MIYASHITA

・最高到達点(cm):290.0

・生年月日:1994/09/01

・サージャントジャンプ(cm):55.0

・身長(cm):177.0

・出身地:三重県桑名市

・出身校・前所属チーム:大阪国際滝井高校


■個人成績・戦績:

・個人タイトル

第59回黒鷲旗・若鷲賞(新人王)

2013/14 Vプレミアリーグ ベスト6
敢闘賞


・団体成績

・岡山シーガルズ

2013・2014国体優勝


意外なことに、日本一とか
個人タイトルには恵まれていない。

三大大会全てに出場し、メダルはない。

強いて言えば、
ワールドグランプリ2014の銀メダル。

所属する岡山シーガルズは
まだ、リーグ優勝はない。
優勝は国体連覇だけ。

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個人タイトルも
黒鷲旗の新人王と
Vプレミアリーグのベスト6
そして敢闘賞。

表彰には縁が薄い。


そんな彼女は負けず嫌いでストイック。
そして、ネガティヴ。

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だから、妥協しない。
そして、周囲の目を気にしすぎた。

自意識過剰というやつだ。
無理もない。

思春期真っ只中の10代半ばで
常に注目される立場にあった。

木村沙織選手のような天然というか
図太さがあればいいが、
いささか繊細でありすぎた。

それが、自らの才能を開花させる
妨げになった点は否めない。

チームでも、全日本でも
常に最年少。
レギュラークラスになっても
雑用は減らない。
チームにいても、
やらなくてはならないことばかり。

彼女自身、普通に学校に行って
青春を謳歌することに憧れを持ったらしい。
その夢は少しずつ叶っていく

初めは食べることさえままならず
痩せる一方だった神経質な少女にも
後輩が出来、全日本でも大事な仲間が出来た。

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自分より年下も出来て
気持ちにゆとりが出来た。

そんな宮下選手にとって
2016年は試練の年。

所属する岡山シーガルズはシーズン通して苦戦。
レギュラーラウンドを4位で通過するも、ファイナル6ではまさかの全敗で敗退。
上手く行かない。

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そんな宮下選手に落ち込む暇はなかった。
今年はリオデジャネイロオリンピックイヤー。
すぐに全日本の舞台が待っている。

彼女にとって大きな経験となったのは
リオデジャネイロオリンピック・世界最終予選。

開幕戦のペルー戦、カザフスタン戦は危なげなく白星を重ねるも、続く韓国戦で手痛い一敗。

それでも、眞鍋監督はセッターを変えない。
宮下選手一本でいく腹を固めた。
だが、韓国戦の敗戦あたりから、雲行きが怪しくなる。

全日本は2015年からミドルブロッカー二枚のスタイルに戻した。
それから二年目。
今年から復帰の荒木絵里香選手とは初コンビ。
中々うまく使えない。

分かってはいても、心のどこかで躊躇がある。
コンビの信頼関係を作るのに時間が足りない。


これ以上星を落とすことが許されない。
そんな中、迎えたタイ戦。

宮下選手は自身の人生でもあまりない
貴重な体験をする。

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勝てそうで勝てない。
速攻でくるかと思えば、コートの隙間を狙う。
まるで日本の分身のようなプレイで
コンビの熟成度は数段上。

取れそうな第一セットを落とし、苦戦の全日本。
度重なるチャレンジで試合は都度中断。
タイの応援団の大歓声がこの試合をより不穏なものにする。

先にタイに王手を掛けられ、後のない第四セット、先行しても尚食い下がられる。それでも何とか寸手のところでフルセットに持ち込むも、更なる苦境が待っている。

迎えた最終セット、12ー6と絶体絶命の大ピンチ。それでも眞鍋監督は宮下選手を替えない。タイのサーブアウトから怒濤の8連続得点。
勿論、その中に宮下選手もコートにいた。
起死回生のノータッチサービスエース。

勢いづく日本はタイの二枚のレッドカードにも助けられ、たちまちセットポイント。
迫田選手のアタックが決まり、歓喜のあまり跳び跳ねる宮下選手がそこにいた。

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耐え難い緊張の中、手の震えが止まらなかった。
そんな中、宮下選手は大勝負を勝ちきる貴重な経験をした。
安堵と喜びの入り交じった涙。

宮下選手は大きな一歩を登った。

これで最初の関門を通過した全日本は、続くドミニカ共和国戦をストレートで撃破し、イタリア戦で予選通過を懸けて闘う。

ここで、連日の早出練習の成果が活かされる。

リオへの切符獲得に燃える全日本は
木村沙織選手が31得点の大爆発。
「私に全部上げて」。キャプテンと宮下選手の信頼関係のなせる業だった。
試合はフルセットの末敗れたものの、全日本はこの試合でリオへの切符を掴み取った。

ところが、思いがけない形で
ライバルが現れた。

今年2016年
全日本に招集された田代佳奈美選手は、
東レの躍進を支えた気鋭のセッター。

ムックさんとも、ミチさんとも
アスさんとも違う。

ジンちゃんのあだ名で親しまれる
田代選手は、自分と全くタイプが違う。

常に10歳前後離れていた先輩とは違い
キャリアが上で、歳も比較的近い。
でも、全日本では自分のほうがキャリアは上。

OQTの最終戦、眞鍋監督はオランダ戦でテストを兼ねて田代選手をスタメン起用。
田代選手はこのチャンスを活かし、島村、山口選手らミドルを要所で使い、チームをフルセットの末勝利に導いた。

全日本の課題を一発でクリアしたライバルが、突然現れた。

田代選手はワールドグランプリでも多く起用され、リオへの切符を掴み、宮下、田代体制が整った。

そして迎えたリオデジャネイロオリンピック。

大事な初戦・韓国戦の先発セッターは宮下選手。

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第一セットこそ理想的な展開で先制するも、第二セットを奪い返され、キム・ヨンギョン選手とヤン・ヒョジン選手の二人に51得点を奪われる完敗。暗雲が垂れ込める。

続くカメルーン戦、第一セットを苦戦の末奪うも、第二セット、7ー3と苦しい展開の中、田代選手と交代。田代選手はこの起用に見事応え、形成を逆転。チームを勝利へ導いた。

はじめてできたライバルの出現。

調子優先の眞鍋監督は、以降、田代選手が宮下選手に替わり、先発セッターを務める。

だが、そんなに簡単なものではない。
ブラジル、ロシア戦と大敵を相手に日本は苦戦。今度は宮下選手がロシア戦でリリーフ。

ここで二人の立場は、初めてイーブンになった。

アルゼンチン戦で再び先発セッターに復帰した宮下選手は決勝トーナメントの切符を掴むと、準々決勝のアメリカ戦へ駒を進める。

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日本はアメリカと好勝負を繰り広げるも、あと一歩が足りない。第一、第二セットを練習され、第三セットも7点のビハインド。ここで田代選手がコートイン、起死回生の7連続得点で20ー20の同点へ。しかし反撃も及ばず25ー22で落とし、全日本女子バレーボールチームのリオデジャネイロオリンピックは終わった。

通じなかった。世界の壁に跳ね返された。
そこには悔し涙を流す宮下選手の姿があった。

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全日本はこれから
東京オリンピックに向けて
振り出しに戻る。

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注目の全日本新監督の人事は10月末。

新たな目標が見つかった。
次こそリベンジ。
母国オリンピックこそ
最高のリベンジの舞台。

恐らく宮下選手にとっても
チームメイトにとっても
生涯最初で最後の東京オリンピック。

その前にやるべきことは
岡山シーガルズの悲願の初優勝。

やるべきことは、まだたくさんある。
たくさんあるから、遣り甲斐がある。

木村沙織選手に「紗理那をよろしくね」と後を託された宮下選手。
勿論、名実ともに日本のエースに成長した長岡選手とともに。

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瞳を閉じて、耳を澄ませると聞こえてくる
「ニッポン‼」コール。

岡山の未来を切り開くため
全日本の未来を切り開くため

明日は宮下遥の風が吹く。